音楽地獄

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千年前の星空を見た夜は。

 京都・奈良・大阪をめぐる古美術研究旅行*1(以下 古美研)から帰ってきた3日後、9月6日北海 道では大地震(平成30年北海道胆振東部地震)の影響を受け、広範囲の大規模な停電に見舞われていた。新聞やテレビのニュースでも報道がなされ、インターネット上などで停電や地震で不安 や混乱の声が多く聞こえてきた。それと同時に、被災した北海道の地域に住む人々からとある驚 くべき体験をしたという報告も数多く散見された。Twitterなどの各種SNSサービスでは北海道の 停電した地域から写真の投稿が相次ぎ、話題を呼んでいた。
 それは、夜空に一面に映る星々の写真たちだった。私がその写真群を最初に見た瞬間は、あま りにたくさんの星が黒い背景にちりばめられているため、「これはきっとイラストソフトなどで 加工した作品なのだろう」と思った。天の川があり、大小の輝く星があった。まるで昔絵本の挿絵で見たような幻想的な夜空だった。しかしそれらの画像は絵ではなく、停電により見れた星 空の写真だと知って驚いた。間違いなく、普段では決して見ることができないような星空だった。 きっと実物も”まるで絵のような”風景だったのではないだろうか。当然写真でしか見れなかったが、 肉眼で見たらものすごい光景だっただであろうことは想像に容易い。少なくともそんな景色は、 明かりに囲まれている現代の通常の生活ではなかなか見ることができない。(2018年10月9日現 在、停電当日の星空の画像は、「北海道 地震 星空」などでウェブ検索して見ることができる)

 インターネット上では、北海道民の方々が感嘆の声とともにアップする、”電気がなかった頃に 見れた夜空”の写真たちと、北海道民以外の地域からの(その多くのは地震の被害と停電に心を痛 め配慮をしつつも)こんな星空を見てみたい、という素直な気持ちで溢れ、湧き立っていた。

 おそらく古では、これがいつも通りの星空だったのだ。晴れた日の月の光のまぶしさも、今日とは比べものにならなかったにちがいない。私は、遠い昔の星空事情を想像しながら、古美研の間に訪問した神社やお寺、そして車窓から眺めた山々を思い起こしていた。

 

 私は以前『日本書紀』の中のとある記述を読んでから、「"大昔"は今と全く”聞こえ”が違っ たのだ」ということを知った。そして今や体験することがほぼ不可能になってしまった古来の日本の音 環境にぼんやりとした憧れを抱いてきた。

 『日本書紀』には天武13(614)年の出来事として、古来の音環境に関する興味深い記述があ る*2。伊豆諸島の火山が噴火し、その爆発音が現在の奈良まで聞こえたと読み取れる箇所がある。 仮にもし今そのようなことが起きたとして、いくら火山の噴火の音が大きかったとしても考えら れない。

 現代はあらゆる「音」に溢れている。空のヘリコプター、道路の車、新幹線やあらゆる 乗り物の音、工場の音、部屋の中で今も静かに鳴る電子機器の音...。もしそれが消えたとしても 数百キロ先からの火山の噴火音をさえぎるには十分すぎるほどの高い建物が沢山ある。

 古美研の間に訪れた四天王寺興福寺は、五重塔が建っていた。四天王寺は約39m、興福寺 は約50m、であった。どちらも当時の技術でよくこんな高い建物を建てられたと、感心してしま う。ただ、少なくとも都心でこの高さの建物は珍しくはない。今や私たちは四天王寺五重塔と 同じくらいの高さのマンションに住んだり、興福寺五重塔をゆうに超えるビルに出かけたりす る。

 それでも、鹿が闊歩する奈良公園で遠くに沈みかける夕日を眺めながら、人の気配の全くないような凛とした空気の流れる厳かな比叡山を歩きながら、こちらに今にも迫ってくるような長谷寺の山々と対峙しながら…そこに流れる音が、 自分の普段の日常の喧騒からは確実に離れた世界だという実感を得ることはできていた、と思う。そして「きっと、” いにしえ”の世界はこんな感じだったんだろう」と追体験をすることができたのではないかと思う。

 学びを担保するのは体験であり、逆に体験を補完するのも学びなのだろう…と、ろくに授業も出ず勉強もしていないくせに、そんな事をこっそり思ったりした(こういうこと、落第生だからこそ無責任に言えるのかもしれない)。千年前の音を聴く事はできないけれど、千年前の音環境を学ぶ事によって当時の感性に一歩近づく事はできる。感性がアクセスできる範囲を広げるためには、体験する事と学ぶ事、どちらも相互に大切な事なのだと改めて気づかされた。

 

おまけ

 

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*1:在学中の学科で開設されている選択講義。例年、関西方面に数日滞在し、神社仏閣を巡って解説を訊いたり、雅楽や声明を聞いたりする。

*2:中川 真 (2004)「サウンドスケープ論」,根岸一美・三浦信一郎編,『音楽学を学ぶ人のため に』,p253,世界思想社